優勢と勝利との距離


 優勢を持続させることほど難しいものはない。ましてや勝利に結びつけるのはなおさらのことである。それはなぜかというと。優勢になると勝利へのルートが複数見えるが故に迷いが生じるからだ。どのルートでもいいように見えるのですよね。しかしそれがすでに罠にはまっている証拠なのである。どのルートでもよいということは、複数の手順が浮かんでいるわけだけれど、そうすれば当然一つ一つの手順が相対的に浅い検討になってしまっているわけですよ。だから普段なら決して引っかからない単純な筋を見落としてしまうのです。でそのままどっちでもいいや、と着手してしまうものだからもういけません。「逆転するならこれしかない」という手順にはまってしまったりするわけです。

 例えば、相手の無理攻めを咎めることに成功。持ち駒も大量にある。ここで、受けきるか一気に寄せてしまうか、という二者択一に迫られるわけですよね。相手に詰みがある、と思ったら寄せてしまうのもいいですし、自玉に寄せがないと確信すれば必死をかけると効率的です。攻め切れないなら自玉に手を入れることです。金銀を寄せたり遊びゴマを活用したり。理屈はそうなんですが、人間は迷う生き物ですからねえ。精神的に強くないとなかなか勝利まではたどり着けないんですな。

 ですから将棋というものは、指し手のリズムというものを重視したりするのです。感触を大事にしたりするのです。理屈に迷わないようにするためにです。理屈的にはどちらでもよい指し手でも、指しての感触や流れに沿っているほうを選択する、というなんというか経験則というのか、なんなのかよくわからんですが、ともかくそういった迷いを断つものを持つ方が勝率はよさそうなんですよ。強い人の棋譜を追っていきますとそれがよくわかるんですよね。だから棋譜並べはバカにできないなと。そこには優勢から勝利への秘密がたくさん詰まっているわけですから。


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初版公開:2004年2月21日 最終更新:2004年2月28日
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