駒を取らない


 強い人の将棋に見られる特徴の一つに「駒を取ることができる局面であってもなかなか取らない」ということがある。だから盤上で同時にあちこちで駒がぶつかったままだったりすることも少なくない。初心者なら脊髄反射して取ってしまうところであるが、ここが上達するかしないかの分かれ道。なぜ駒を取らず他の手を指すのか考えてみれば、納得できるだろう。

 まず、駒は取るより取らせたほうが手得できる、ということである。序盤の角交換などがその好例だろう。角を自分から交換すると、その一手分損するのですよ。その一手を他のところに回したほうが効率がよいのです。ここが理解できれば初心者は卒業でありましょう。

 次に、駒を取ることで敵陣の攻め駒に活が入るのを嫌う場合があります。簡単な例だと、先手に▲3七桂、▲4六歩があり後手に△4四歩があったとして。ここで先手が▲4五歩と突くとします。後手は△同歩と取ると▲同桂と活用される順が生まれます。駒に活を入れるというのは、その駒の性能が存分に発揮できるようにすることなわけですが、それを簡単に許すのは後手の損だといえるのですね。もっともそのまま放っておくと▲4四歩と取り込まれてしまうわけで、その局面と、桂跳ねの局面ではどちらが後手にとって有利だろうか、という判断は当然別途必要なってきます。

 戦力が集中している地点では、駒の総交換が行われてしまうことがありますが、その結果、駒の利きが失われてしまう損が考えられます。特に敵陣で戦っている場合など、手掛かりが失われてしまうリスクがあるので、簡単に駒を取ってしまうのはいただけません。あわせて総交換のケースでは持ち駒を渡す危険も付きまといます。持ち駒を与えると反撃が厳しい場合が多いのです。この点も大いに考慮に入れたいところです。

 そしてなにより、駒を取る一手を、盤上で遊んでいる駒に費やしたほうが効果が高いケースがあるという事実もあわせて知っておくとよいでしょう。

 ところで将棋は例外のゲームです。ある局面では総交換したほうがよい、といったことも往々にして直面すると思います。この辺の単純な法則では割り切れない複雑なゲーム性は、将棋の魅力の一端だと思ったりしますね。ホント、難しいや。


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初版公開:2004年1月24日 最終更新:2004年1月31日
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