順位戦。プロ棋士にとって「本場所」と呼ばれ最重要視される棋戦だ。なぜかといえば、所属するクラスによって基本給が決まるからね。だからまあ、指す方も必死なわけで。最下級クラスから「落ちる」と基本給がなくなってしまうし。
他の棋戦だと負けたら、残りの年度は将棋を指せないが、順位戦はリーグなので一年間勝とうが負けようが指さなくてはならない。だいたい月一局のペースなので、そこに照準を合わせて調子や体調を整え続ける力がないと勝ち抜くことは不可能だ。あるいは他の棋士より圧倒的な力の差がない限り。
クラスが上がれば所属する棋士のレベルも上がるので、連続昇級はさらに難しい。だからC2からAまで四連続昇級なんて、想像を絶する難易度であるわけよ。四年間の内に自分の力をA級にまで引き上げたのか、あるいはC2の時点ですでにA級の力を身につけていたのか。どちらにしても呆れるわけなんだが。
四連続昇級者は実に五名を数える。まずは納得できる三名から。最初は「神武以来の天才」加藤一二三。この人の場合、すべてが破格なので何も言うことはないんですが。しっかし二十歳前にA級って、いまの将棋界じゃ想像もつかないね。
次はおよそ棋士っぽくない、芹沢博文。24歳でA級入り自体も快挙である。そもそもA級には30歳までに到達できれば立派なものだ、といわれている世界であるわけだからね。しかもこの場合四連続昇級ってんだから。このとき、「将棋ってちょろいな」と思ってしまったのかも知れないな。その後の彼の没落具合は寂しいものであった。ああ。
彼の弟弟子である中原誠。彼も連続昇級し22歳でA級に到達。そこから20年にわたって棋界に君臨した実力は初昇級した19歳の頃に完成していたのかもしれない。あの圧倒的な大局観は素晴らしいものであった。
中原についでやっと永世名人位を手にした谷川浩司も四連続昇級。彼は加藤より一年遅れで昇級した。つまりA級は19歳。もう10代でA級なんて出ないでしょうね。40歳を過ぎてもトップクラスで戦っていくには、これぐらいのキャリアがないと駄目なんでしょうか。
そして五人目の連続昇級者が、なんと。田中寅彦。ちょっと、そこの人、ずっこけないで。今は色物棋士としてB1で戦っていますが、若い頃の田中は才気走った俊英で、その、強かったのですよ。今じゃ信じられない、という人もいるでしょうけれど。終盤が強ければもっと活躍できるのでしょうが、これは無い物ねだりですかねえ。
今後、四連続昇級者なんて出ないでしょうから、上記五名の偉業は今後も色褪せることなく輝き続けることでしょうね。そうなんだ、寅ちゃんがねえ…。