作戦態度保留の術


 作戦態度をなかなかはっきりさせない指し方がありますよね。自分からは動かない、というか。私がよく遭遇するのは先手番の時、後手が居飛車か振り飛車か態度をはっきりさせないで指してくるというものです。具体的には、▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二銀。ここで▲6八玉だと△8四歩と居飛車にされて前の手がマイナスになっているのが不満。故に無難に▲5六歩と突くのですが後手は△4三銀とまだ含みを持たせてくる。前出のように玉を上がるのは、やはり居飛車にされて損な気分になるんです。居飛車相手なら6九のルートを通りたいですから。だからといってここで▲2五歩だと△2二飛車と向い飛車にされてしまう。これですぐに悪くなるとは思わないけれど、△2四歩の権利を与えるのは得策じゃないよなあ、第一▲5六歩と突いているから、角が出られると自陣に直射されて頗る気を使わないといけない。これでは神経衰弱を起こしてしまうかもしれない。と散々考えて▲5八金と上がるわけです。序盤だけでもこれだけのドラマがあるんだな。

 ただこの金を上がると飛車交換といった大捌きには向かない陣形になるので、序盤では少し損なのかもしれないんですよ。これは私が乱戦好きというものあるかもしれません。結果、序盤での相手の挑発には乗れないということになるわけで、気分が悪い。まあ、以下、△5四歩とまだはっきりさせないのなら、こちらも覚悟を決めて▲6八玉と上がりますよ。ここで△8四歩なら▲7八銀とし、△8五歩▲7七銀△6二銀▲7八玉△3二金▲7九角以下、居飛車対雁木という対決になることが大半です。その後、角交換して棒銀で攻めるというのが僕のスタイルですが苦労が多いです。本当は角交換をしたくないのですが、△4五歩とされると、角筋が玉頭を直射する格好で流石に厳しいですからねえ。こうなると先手玉の方が相手の飛車に対して少々近いし、玉頭が薄い。後手は先手の攻撃をいなして反撃がメインですからこういう展開は歓迎でしょう。つ・ま・り。相手の術中にはまっているわけですな。勝率は五分五分といったところですが、どうもイニシアティブを握られているようで悔しい。

 じゃんけんでいえば、後出しですからそりゃ有利だよなあ、と思います。一方、局面をよく見れば、先手陣は玉に金銀がまとわりついて、そこそこまとまっているのに対し、後手は小手先に手数を費やした分、玉周りの整備がおざなりになっているという一面もあるわけです。そう考えると、先手は早々に一点集中して敵陣を突破すればよし、後手は持久戦にし作戦勝ちに持ち込むのがベストということも解ってきます。まあ、わかったところで、思ったように指せるかどうかは、本人の棋力次第なのでしょうけれど。軽い攻めでは受けきられてジリ貧になってしまうことも多いですからねえ。ええ。

 プロの戦法でいえば、森下システムはその典型だったように思います。相手の態度を見て、いちいち形を変えていく様が、です。ですから戦術としてはおおいに、あり、だと思います。実に実践的である、と。


 本戯言の実践例が、きよきよさんのページ掲載されていますので、併せて読むと効果的ですよ。(2003年9月8日)


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初版公開:2003年9月6日 最終更新:2003年9月13日
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