初中級者向け棋書のアイディア


 将棋の入門書って毎年新装版がお目見えしているものの、これといった定番本というものがない。いくつかパラパラと立ち読みしてみるが、どれも同じ構成であって特徴があるものは皆無である。インターネットによる対局や将棋 HP 、将棋ソフト情報などが追加されているだけで中身は大昔のものと大差ないといえよう。レイアウトに懲りすぎたり将棋図を立体的にしたりといった行き過ぎた改変もご愛嬌。まあ、入門書程度なら監修に有名棋士の名前を入れておけばいいだろう、という出版者の安易な意図が見えるのである。

 ところでこの間、まったくの初心者に教える機会がありまして。駒の呼び名から動かし方、ルールや禁じ手を一通り教えた後、とりあえず平手で指すことにしました。ですが駒に手が伸びない。「ほれ、指してみ」と促すのですがずっと考え込んでいる。どうして指さないのと聞くと、「初手は角道を開ける、とか飛車先と突けとか教わりましたけれど、それと相手の王様を詰めるという状況がどうしても結びつかないのです。飛車先を突くことと関係があるのですか」とのたまう。「入門書とか読んだことがあるんですが、最初にルールを覚えるのはわかるんですよ。序盤、中盤、終盤というのもわかる。だけど初手から最後に到るまでも道筋がもう、さっぱりわからないんですよ」っていうのである。

 考えてみれば確かに、序盤、中盤、終盤といった個別の解説は今まであった。しかしそのまさに局面が移るときのポイントを押さえた本というは皆無なのかもしれない。序中終盤の感覚はかなり違うので、そのつながりを理屈で説明するのはなかなか難しい、ということもある。今までの将棋の覚え方といえば、とりあえず指してみて負けて、自分で考えて、また負けて、将棋本の形を真似てみて、また負けての繰り返し。何度もパンチを喰らって初めて、初手▲7六歩や▲2六歩から、終盤玉を詰めるまでの流れ、感覚を体得しなくてはならなかった。ここで凹んで将棋を指さなくなった人も大勢いたのだろうな。であるからして、もっとロジカルに将棋の流れの感覚を養うことができれば将棋で挫折する人も減るんじゃないか、ということが考えられる。そしてここの部分が、まさに将棋入門書に必要な項目だと思うのですよ。

 アイディアとしては二つある。一つは、誰かの棋譜(できればプロの)の初手から最終手までを、事細かに解説したものを用意する。生きた棋譜を使えば、どの瞬間が序中終盤の分岐点であるかを明確にできる。自戦記をより、徹底したものにしてみるのである。そしてもう一つは終盤の局面から遡って解説した棋書を作るというもの。こうすることにより、王様を詰める、という目的意識がはっきりする。そして、王様を詰めるためにはどのような中盤を戦えばよいか、という議論ができ、さらに有利な中盤を迎えるには、どのように序盤を進めればいいかという話ができるわけですよ。今挙げた二点をポイントにした棋書があれば、初中級者には格好の教科書となるんじゃないですかねえ。


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初版公開:2003年1月4日 最終更新:2003年1月11日
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