たくさんの判断基準

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 将棋の形勢を判断する基本はだいたい、手番、駒の損得、駒の働きといわれることが多い。これは将棋を指すすべての人に有効な基準だといえる。わかりやすいということが一番の利点だ。手番とは自分か相手どちらが手番を握っているかということだし、駒の損得はスタート時に支配している20枚の駒が増えたか減ったかということ、三つの基準の中で一番判断が難しい駒の働きでも、敵玉に近い駒数から、敵玉から離れている駒数を引いた数が相手のそれと比べてどうか、ということだからまあ慣れればわかることだ。しかし。初級者から中級にあがろうとするときこれらの判断基準だけでは勝てないことに気づく時が来る。

 将棋はおおよそ序盤、中盤、終盤と局面を分けて考えることが多い。序盤は駒損してはいけない、中盤は遊び駒をなくせ、終盤は駒損より速度だ、という言葉、聞いたことがあると思う。これらの言葉は最初にいった手盤、駒の損得、駒の働きという判断基準も場合によって優先順位が変化するということを告げている。ダイナミックな価値観の変化だな。次の瞬間には駒得という要素に意味がなくなる、というケースが出現するわけだよ。そういった切り替えのタイミングを常に意識する必要が出てくる。羽生四冠は他のトップ棋士に比べて終盤の感覚が10手以上早いのだそうだ。とらえ方一つで棋力は大きく変わる。

 と、局面のおおざっぱな判断は上記の基準でよい。しかし。これらの基準はさらに戦型によっても変わってくる。例えば振り飛車対居飛車急戦では玉の堅さと大駒の働きが一つのポイントになってくる。振り飛車側は少々駒損していても飛車さえ成り込めれば優勢だし、逆に居飛車は飛車交換して先着するぐらいでも厳しい(ことが多い)。できれば相手の飛車を押さえ込んで居飛車だけ飛車を成り込めればベストだ。角換わり腰掛け銀なら先手よしだったり、穴熊なら敵玉に駒が張り付いていたりすればいくら駒損してもよいとか、これはもう膨大な判断基準が存在するわけですよ。

 これだけでは勿論無くて、指し手を決定する上で別な要因もある。それは指し手自身の棋風に忠実かどうか。これはかなり重要な要素を占める。乱戦好きがガチガチの定跡将棋を指したって判断基準が狂うこと必定。定跡好きが乱戦に挑むのも同様。選択する戦法でも棋風によって大きく変わる。振り飛車一つとっても、大山一五世の振り飛車、藤井振り飛車、鈴木振り飛車、久保振り飛車というようにバラエティがあるし、したがって判断基準も異なるわけ。

 相手の判断基準と自分の判断基準、どちらが勝っているか比べが将棋の面白さである。強くなればたくさんの判断基準を持ち、それが洗練されてくる。たまには自分がどのような判断基準で指しているか意識して指してみることを勧める。意外と粗雑な判断をしていて振り返るのが嫌になるかも知れませんが、それが強くなるということだ。ひるむんじゃないぞ(笑)。


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初版公開:2002年6月22日 最終更新日:2002年6月22日
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