炎の将棋本編集者


 ここ最近の将棋本のヒットといえば『最前線物語』を挙げる方が多いと思います。内容は河出書房新社最強シリーズの中でも評判だった『これが最前線だ!』の後継ともいえる定跡網羅集で、前著から出版月の期間でのプロ将棋最新形が解説されています。八重洲ブックセンターでの週刊売上がベストテンに入っていたという売れ行きで、将棋ファンのニーズに応えた実に意義のある棋書だったといえますね。で、最前線物語の出版元は新興出版社の浅川書房。その代表を務める浅川浩氏こそが名著量産編集者として、称えるべき人物なのです。

 元々は毎日コミュニケーションズで週刊将棋の編集者からスタートしたそうで、そこから書籍チームに移り、編集者として『角換わり腰掛銀研究』(絶版)若手自戦記集である屋敷伸之『茫洋』(絶版…)を担当。すでにこの時点で質の高い(と私が思う)書籍にタッチしているんですね。「腰掛銀」は内容の質の高さもさることながら、需要あるのかよみたいな戦型の本を作っちゃうパワーに感心です。若手に自戦記を書かせるというのも新鮮でよかったし。

 河出書房新社に移ってからは『読みの技法』や『戦いの絶対感覚』といったヒットシリーズ「最強将棋塾」を手掛けます。また、観戦記の書き手として信頼すべき東公平氏の作品の書籍化(東公平コレクション)も行っています。そうそう、「昭和の看寿」と讃えられる山田修司氏の作品集『夢の華』の編集にも携わっていましたね。売れる売れないよりなによりまず良いものを作る残す、という信念を強く感じます。初心者のファンのために先崎学と作った『ホントに勝てるシリーズ』は、序盤から丁寧に解説したそれこそ、痒いところならどんなにところにも届くぞといわんばかりの作りこみで、これもまた推薦できる好著です。

 私が気づいただけでもこれだけあるのですが、もっと他の好著もあるのかもしれません(悪書もあるのかもね)。しかしどの著作を取ってみても将棋界とファンとの掛け橋としてレベルの高いものを供給し続けているわけで、これは相当の目利きじゃありませんか。普段僕達は著者ばかりに目が行きがちですが、見えないところで活躍されている人がいることを忘れちゃいけませんし感謝しなくちゃね。

 ところで週刊将棋で浅川氏が観戦記を書いている回があり(2003年10月1日のレディースオープンの観戦記)、その中で『女流棋士の本』についてやられたと思った、と書いているのですが、これ、内容についてのことじゃないですよねえ。「女流棋士をテーマにした本」という題材を先に使われてしまった、ということだと思うんですよ。逆にいえば浅川氏が「女流棋士をテーマにして」編集してくれるのならば、是非読んでみたいと思うんです。作ってくれないですかねえ。


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初版公開:2003年11月1日 最終更新:2003年11月8日
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