香車の特殊性


 歩、香車を除き、すべての駒は、中央へ向かう動きができるわけです。斜め方向に動けますからね。歩だって、前にしか動けませんが、何しろ数が多い。取られて中央にやおら出現することもあるので、まあ、中央へ出てくる頻度は高い。

 しかし。香車はねえ。一番端にいるし、何より横に動けない。数は合わせて四枚だし。香車自体が攻めの起点になることはアマチュア初中級では少ない(振り飛車が多いからね)。一局の内、放置され、敵味方から見向きもされないことも多々ある不遇な駒である。じゃあ、一体何のためにいるのだろう?

 現実的には、相手に取られるための存在している、といってよいかもね。取られて初めて能力が発揮されるという、誠にヘンテコな駒じゃないかと思うわけです。相手に使われてその脅威を知るというか。故に自分が使おうと思ったら、一度相手に取られて、使われて、何かの駒と交換して初めて使うことができるという、非常に手の込んだやり方で帰ってくるわけですよ。これ、一度捕虜になって、相手の人質と交換、みたいなイメージです。スパイに見たいに、わざと相手国に入るというような使命もないのにです。なんともひねくれた存在ですなあ。かの棒銀戦法では、銀より香車を重んじますしね。

 強くなれば盤面の隅にいる香車にも活を入れる技量が身についてきます。まあ、だからって使われ方はやっぱり変わっていて、例えば8五飛戦法で角を打たせ、香車を囮に手を稼ぐ&馬を封印したりとか、手待ちのために一マスづつ進めたりとか、相手に取らせないように逃げるだけの手を指すとかね。なにかこう、スッキリしない登用であります。

 まあなんだかんだいっても、直線ならどこまでも届くという能力は絶大ですから、中盤の5九や5一に据えた時の安心感や終盤での底歩ならぬ底香とかあって侮れないんですよね。そうそう、羽生四冠は他の棋士に比べて香車を触ることが多いそうです(米長兄の研究に拠る)が、あの羽生マジックは香車の活躍にあるのかと思うと、不思議な感じがします。


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初版公開:2003年9月27日 最終更新:2003年10月4日
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