権威なき升田幸三賞


 升田幸三賞の受賞者と対象戦法について、とりあえず下記する。戦法についてはうろ覚えなので、間違っていたら指摘して下さい。

升田幸三賞受賞者一覧(〜2003年)

 で、今期の受賞戦法が「カニカニ銀」に決まったわけなんですが、上記の面子とあわせて考えると力不足ではないですか。「藤井システム」「ゴキゲン中飛車」「中座飛車」に比べると戦法としての実績が伴っていないでしょう。大体、カニカニ銀が注目され書籍化されたのは随分と前のことですし(1992年2月発行)、開発者の児玉七段が活躍した、という話もなかったように思います。ましてやその戦法の追随者もいないのですから、賞を与えるような戦法ではないでしょう。いや、「カニカニ銀」戦法自体の評価は別ですよ。

 現代将棋は研究が進み、未開拓地も昔に比べれば狭くなっているように感じます。とはいえ、「藤井システム」「中座飛車」のように、衝撃を与えた戦法は周期的に現れています。ある戦法が絶滅に追い込まれるようなほどの強力な戦形こそが、受賞対象になると思うし、そうじゃなかったら、新手一生の髭名人の名前なんぞ付けるなんて不遜も甚だしいと思います。新手賞ぐらいが丁度いいんじゃないでしょうか。それに、受賞対象戦法は、少なくてもニ、三年前ぐらいのものにして欲しい。過去の戦法や新手を持ち上げるのは、お門違いだと思いますよ。だって、本当の意味で「新手」じゃないもの。

 ですから、「米長玉」「鷺宮定跡」「横歩取り空中戦法」も首を傾げたくなる受賞です。受賞年度より数十年も前の戦法を祝ってもなあ。受賞条件が非常に曖昧で、賞の権威を自ら好んで下げている気さえするのですが。基本的に、賞にはそれに見合った条件というものがあるはずです。振り飛車を復活させた「藤井システム」クラスの衝撃と、「カニカニ銀」の僅かな反響を考えれば、基準の無秩序ぶりが伺えますよねえ。カニカニ銀が受賞するのなら、衝撃と古さでは振り飛車を絶滅寸前まで追い込んだ「居飛車穴熊」に取らせるべきだし、先手番の得を最大限に生かし猛威を振るった(過去形ですが)塚田スペシャルも候補にあがるんじゃないかと思うのですね。森下システム、脇システムもそうでしょう。

 「新手一生」を掲げた升田の名を冠した賞なのですから、「藤井システム」「中座飛車」クラスの戦法が生まれない限り、賞を与えてはならんと思うのですがどうですか。「カニカニ」クラスはそうですねえ、升田賞は無理としても、将棋史には残るように、将棋戦法辞典に名前が残るような配慮ぐらいはしてもらえる権利はあると思います(戦法辞典を作る気があるのなら、ですけれど)。それ以上の価値は今のところ、ない。でもゴキゲン中飛車のようにタイトル戦に登場するようになり、決定的な対策が数年経っても確立されなければ升田賞のエントリーは許可されるのではないかと。それぐらいの厳しさがなくては、賞の権威もへったくれもないと思うのですがね。

 現代の将棋指しや観戦記者は過去の将棋を並べないせいか、先人の凄さをあまりに軽んじすぎる。升田幸三がどんな思いで新手を創出しつづけたか、そして見る者を魅了したかを思い出せ。そして曇りなき眼(まなこ)で賞を選出して頂戴よ。選出者もひねこびた老人ばかりで決めるんじゃなくて、ファン投票するとかしたらどうよ。頼むから、賞の名称に見合うように選考してくれよな。対象戦法がないのなら、受賞者なしでもまったく問題ないのだから。


 升田の残した棋譜を楽しめるサイトを紹介します。新手の衝撃もさることながら、次の一手問題で散見できる升田のセンスと着想の柔軟さに刮目せよ! 「死ねば棋譜しか残らん」と言い残した升田の生き様に、やはり惹かれるのです。

幸三年代記 - KOZO CHRONICLE -


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初版公開:2003年4月12日 最終更新:2003年4月19日
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