戦争

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 戦争とは闘争本能の発露である。自己保存本能ともいえよう。それらは生物が生き残るための基本的な特質であるわけで,進化の果てに産み落とされた人類にもいくぶん備わっている。が,どういうわけか一般の生物とは異なり「むやみに争っていてもしょーがないじゃん」と人類は悟ったのだった。そのほうがどうも自己保存に向いているらしいって気づいた暇人がいたのだろう。

 とはいえ,人類も生物の一員だから,どうしても闘争本能は抜けきれない。故に,人間社会では闘争本能と自己保存本能を満たすべく,戦争代理物が発達するのである。スポーツは最たる例である。サッカーなんて国家間の代理戦争だという意見もある。頭脳スポーツであるチェスや将棋もその一つだといえる。

 チェスや将棋の元祖は「チャトランガ」という4人用のすごろくゲームだといわれている。誕生地はインド。西に伝わってチェスへと発展し,東へ持ち込まれて将棋へと形を変えたらしい。

 うろ覚えだが、チャトランガの生まれた背景を記憶のままに書いておく。たしか何かの図鑑に載っていた話だ。数の図鑑だったような気がする。小学生時代の僕は算数が大好き(変な小学生だな)で,よくこの図鑑を読んでいた。計算よりも数字の不思議さに惹かれたんだと思う。例えば一筆書き問題とか,ハノイの塔,魔方陣などが思い出される。数学者や数学史にも興味があっていろいろ調べたこともあった。数学者には変人が多いから,読んでいて飽きない。アルキメデスの死に際とか,ガウスの恋愛沙汰とか,最近ではフェルマーの最終定理解決,放浪数学者とか。日本人数学者も結構活躍しているって知っている人いるかしらん。特にフェルマーの最終定理は志村・谷山予想が解決の鍵を握っていたわけなんだけれども。

 話がそれてしまったな。それではチャトランガ誕生のお話を致しましょう。

 昔々インドに王様がおりました。根っから争い事が大好きな王様で,暇があっては隣国にけんかを売っておりました。こんなに戦争に打ち込む王様はおりませんでした。戦争には莫大な費用が掛かります。兵士も傷だらけです。このまま戦争を続けていれば,いずれ財政破綻を来たし,国債を頻発する羽目になります。そうすれば国が破産するかもしれません。当時は経済学が発達していませんでしたが,さすがにやばいだろう,という空気が国中に流れました。しかし相手は王様です。意見しようものならそれはそれは酷い仕打ちを受けるかもしれません。みんな自分がかわいいので黙ったままです。いつの世もそんなものですね。

 ただし例外的に王様に意見を言うことができる人たちがいました。坊さんです。坊さんは国家的歴史的宗教的理由でどういうわけか地位が高く,王様とため口で話すことができるのです。そこで国民は坊さんにいいました。

「このままだと僕たちはいづれ飢えて死んでしまいます。どうにかして戦争を止めるよう王様に言ってもらえないでしょうか」

 ほおっておけば国が傾き,坊さんの地位も危ぶまれます。国が滅べば,坊さんの地位を保証してくれる仕組みがなくなってしまうのです。利に聡い坊さんは一計を案じました。戦争を模したゲーム,チャトランガを作ったのです。そして王様にいいました。

「戦争が好きなら,ゲームぐらい簡単に勝てるでしょう。いっちょやってはみませんか?」

 争いごとならなんでも首を突っ込む王様。まんまと乗ってきました。単細胞は扱いやすいですね。実際遊んでみるとこれがなかなか坊さんに勝てない。アツクなった王様は,本当の戦争のことなど忘れてチャトランガに没頭したとのことです。その結果,国には平和が訪れたそうな。

 えー,かなり脚色していますがだいたいこんな感じだったような気がする。でも普通の暴君なら,なかなか勝ちを譲らない坊さんなんて即刻打ち首にし,戦争を再開しそうなものですけどね。こんなに物分りがよい王様なら最初から戦争しなかったように思うのだけれど,まあ,お話はお話しってコトで。

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初版公開:2001年06月09日 最終更新日:2001年12月11日
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