某飲み屋。
「やりましたな」
「やりましたね」
「青野に負けたときはどうなることかと思いましたが」
「佐藤も順当に星を伸ばしていましたからね」
「結局最終戦に勝ったほうが挑戦、っていうのが逆によかったのかもしれないな」
「そういうものですかねえ」
「いかにも、挑戦者って感じがするじゃん」
「でも指すほうはしんどかったんじゃないですかねえ」
「そういうシュチュエーション、将棋指しなら本望なはずだよ」
「俺なら早めに決めたかったね」
「そりゃ誰だってそうだよ」
「戦形って知ってる?」
「腰掛け銀模様だったんだよね、たしか。しかも先手は谷川先生(笑)」
「佐藤も相変わらず損な性格、っていうか男気があるっていうか」
「そういうあえて挑戦する、っていう姿勢は評価したほうがいいんじゃないのかなあ」
「もちろんそうだな。勝負としてはどうかんがえても損なはずだけど」
「こういう情報はなかなか一般の人に伝わらないんだよな。佐藤ってなんとか流ってフレーズもないだろう?」
「ありますよ、たしか緻密流とか」
「……ぱっとしねえなあ。」
「たしかにね。将棋の内容まで踏み込んでうまく一般の人に伝えることができれば、我々もこう片身を狭くしなくてすむのになあ」
「ま、それは課題だとしてだよ、谷川先生、ほんとおめでとうございますだな」
「今年はタイトル戦でまくってますよね。残念ながらひとつも取れなかったけど……」
「過去は振り向かない。次の名人戦で頑張ればいいんだよ」
「対戦相手も羽生から丸山に変わりますし、気分転換にもなるでしょうし」
「でも得意戦形が腰掛け銀だから、素人にはわかりずらい戦いになるんでしょうなあ」
「それはあるかも。でもこれも解説する側の問題って気もするよ。いろいろ工夫すれば何とかなりそうな気がする」
「そういうもんかねえ」